顎顔面口腔育成とは、何を行う治療なのか?
「難しい言葉を使ってあっても、歯科医師が行う治療であれば矯正治療の延長なのでは?」と考えられるのは無理からぬところではありますが、実を言いますと目的としている、あるいは目標としているところが、他の多くの矯正治療とは異なります。
成長期の子供の正常な頭・顔面・顎の発育は、小さなボールが膨らんでいく現象と似ています。
上顎がおもに水平方向へ、下顎はやや前下方に成長するとボールのようにキレイに大きくなりますが、歯並びの悪さを訴えて来院される患者さんは、顎顔面の「きれいな膨張」ができていません。
例外なく、水平方向(前方)への成長が不足し、代わりに下方への成長量が増えてしまっているのです。
この現象を
ダウングロース(下方成長)
と呼び、さまざまな不正咬合(ふせいこうごう)が生まれる主たる原因だと考えています。
この異常な成長方向を修正し、顎顔面が本来あるべき位置に誘導していくことができたら、つまり不正咬合の原因と考えられることにアタックすることができたら、木で言えば大き
な幹の部分を正すことができたら……、
当院はその術(すべ)を有しています。
きちんとした術前診断をもとに
歯並びについて説明してきましたが、私が行っている顎顔面口腔育成の主な治療目標は「歯並びの改善」ではありません。
人にとって歯並びよりも大切なことがあります。
歯科治療全般で最も重要なことは、「よい咬合」、つまり「よいかみ合わせ」(よい歯並びも含めます)であると言われていますが、「命」ということを考えると、「質の高い呼吸」の方がより上位と考えて問題ないと考えます。
顎顔面口腔育成治療により、頭蓋、顎顔面、口腔を生理的な発育に持って行くことで、咽頭部(空気の通り道)を広くできる可能性が高く、歯並びよりも大切な呼吸の改善が見込まれます。
また、顎顔面の生理的な成長へ導くということは、顔の自然観をよりよい方向へ向かわせることに他ならないので、張りのある、魅力的な顔貌(がんぼう)も得られます。
このように歯並びだけではなく、人のクオリティー・オブ・ライフという観点からもっと高い位置にある
まず不正咬合がなぜ起こるのか、不正咬合の大きな原因は何かということを理解しておかなければなりません。
叢生(ガタガタの歯並び)、開咬(しっかり噛んでも上下の歯の間に隙間ができる)、上顎前突、反対咬合など全ての理想的ではない歯並びが生じる大元のきっかけは、上顎を含めた中顔面を構成する骨複合体が回転しながら下方に降りてくる、つまりダウングロースであると考えています。
この部分に目を向け、不正咬合の原因にアタックして問題を解決しようとするのが、バイオブロック(Biobloc)、上顎骨前方牽引装置を装置として主に使用する顎顔面口腔育成治療です。
一方、シュワルツアプライアンスとして総称される床拡大装置は、現象として「歯を並べるスペースが少ない」ということがあれば、平行拡大、つまり、立体的な問題を目を向けずに、スクリューなどを使用して2次元的(平面的)に顎の骨を広げようとトライするものです。
顎顔面口腔育成治療と床矯正治療との違いを理解する上で大切なことは、歯を並べるスペースが少ない=顎の骨が小さいということではないということです。多くは、『回転とひずみによって骨がたわんで小さく見えている』と表現した方が、より正解に近いと思います。
(*右図 画像をクリックすると拡大画像が開きます。)
たわんだ骨をたわんだまま広げようとしても無理があります。
仮に広がっても、それは上部のみで、ほとんどの症例で、時間がたったり、奥歯のかみ合わせがしっかりしてくるにつれて“後戻り”という現象を起こしてしまいます。
(**左図 画像をクリックすると拡大画像が開きます。)
また、歯の挺出(歯が伸びること)を伴い、さらに垂直的な(3次元的な)問題を増大する危険性を伴っているのです。
顎顔面口腔育成治療は、ダウングロースという現象によって正常ではなくなった骨にアタックして、それらを本来あるべき位置、多くは前上方へ再配置させることで、異常を異常のまま放置せず、大元の異常を改善していく(多くは拡大治療を伴います)、その結果歯並びも治っていくという治療です。
まとめると
ここでは、“歯並びを治す”という面にのみ焦点をあてて比較してみましたが、顎顔面口腔育成治療では
「人にとって歯並びよりも大切なことがあります」
という考え方にたっているということは理解しておいてください。
上顎骨前方牽引装置という治療用装置が使用できるようになったことで、治療可能な治療開始年齢の幅が大きくなりましたが、患者それぞれが、理想的な顔貌(がんぼう)を得るためには6,7歳、遅くとも10歳前には開始したいものです。
日本人は欧米人と比較して、明らかに上顎骨の前方発育が悪い人種です。下顎は上顎骨の影響を大きく受けるということを考えれば、最初から歯並びには不利な骨格なのです。
脳頭蓋とつがなっている上顎骨は基本的にほとんど動かない、拡大できる量も限られているとした考え方の従来の矯正治療では、スペースが足りなければ永久歯抜歯からの治療になる可能性が高くなることはいたしかたありません。
当院で行う治療は基本的に非抜歯による矯正治療です。もっと言えば、歯並びよりも、はるかに大事な『異常な呼吸の改善』『理想的な呼吸路(気道)の獲得』に重きを置いた治療を目指していますし、慢性的な鼻疾患を有するほとんどの患者さんで症状の改善が得られています。
すべての治療で精度が高い治療を提供できていると自負していますが、この頭蓋・顎顔面・口腔咽頭全体を改善できる治療は、患者さんの健康増進に直結する、長い人生を豊かにする治療であると考えています。